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病気と治療について理解しよう
潰瘍性大腸炎について
- どのような病気か分かりやすく解説! -
【監修】横浜市立大学附属市民総合医療センター
炎症性腸疾患(IBD)センター 内科担当部長
国崎玲子 先生
1.潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis)とは?
潰瘍性⼤腸炎(かいようせいだいちょうえん)は、大腸の粘膜(ねんまく)に炎症が起こり、それによって粘血便※1(ねんけつべん)や下痢、腹痛などの症状があらわれる病気です。大腸の中でも、出口に近い直腸(ちょくちょう)から奥に連続した部位の粘膜や粘膜下層※2に、「びらん」や「潰瘍」という、粘膜の傷やただれが生じます。さまざまな要因が関与して潰瘍性大腸炎を発症すると考えられていますが、原因については現在のところはっきりしていません。
- ※1
粘血便:粘液(体から分泌される粘り気のある液体)を含む血便
- ※2
粘膜下層:粘膜の下にある層のこと
2.潰瘍性大腸炎でみられる主な症状と合併症
潰瘍性大腸炎の主な症状や合併症について以下の2点を簡単に解説します。
- ・潰瘍性大腸炎の主な症状は粘血便や下痢・腹痛
- ・腸管や腸管外に合併症が起こりうる
潰瘍性大腸炎の主な症状は粘血便や下痢・腹痛
潰瘍性大腸炎の主な症状は粘血便や血便、下痢、腹痛が挙げられます。
粘血便とは体から分泌される粘り気のある液(粘液)を含む血便です。血便は血液が混じっている状態の便を指し、紙に付着する程度のものから、便器が真っ赤に染まるものまであります。便の色は基本的に赤味がかかった色ですが、赤黒い場合もあります。潰瘍性大腸炎の症状がひどい時は、便は出ず、血液だけが排出される場合もあります。
潰瘍性大腸炎は1日に10~20回以上の下痢をすることもあります。
また、お腹を押されるような鈍い痛みや、ひどい場合は刺すような鋭い腹痛が起こることもあります。
腸管や腸管外に合併症が起こりうる
潰瘍性大腸炎は大腸に炎症が起きる病気ですが、炎症が悪化した場合や長期化した場合には合併症が起こる可能性があります。合併症は、合併症が起こる部分によって「腸管合併症」と「腸管外合併症」の2種類に分けられます。「腸管合併症」は、大量下血や大腸穿孔、大腸狭窄、大腸がんなど、「腸管外合併症」は、関節炎、皮膚病変や眼の病変が挙げられます。
3.潰瘍性大腸炎の考えられる発症原因
潰瘍性大腸炎を発症する原因ははっきりしていないものの、遺伝的な要因や環境要因、腸内細菌の関与など、さまざまな要素が複雑にからみあって発症に至ると考えられています。
遺伝的要因
潰瘍性大腸炎の発症のしやすさに影響を与える遺伝子があるといわれています1)。ただし、潰瘍性大腸炎患者さんから産まれたお子さんが必ず潰瘍性大腸炎になるというような、いわゆる「遺伝疾患」ではありません。
環境要因
食事(砂糖菓⼦の摂取)との関連や、⾷⽣活の欧⽶化、衛⽣状態の変化といった環境要因も影響していると考えられています。
腸内細菌
炎症性腸疾患(えんしょうせいちょうしっかん)※4では、健康な人と比べて腸内細菌の種類や量が異なると報告されていることから、腸内細菌が関与する可能性が考えられています2)。
- ※4
炎症性腸疾患:腸の炎症性疾患を総称した名称。⼀般に潰瘍性⼤腸炎とクローン病の2つを指します。
4.潰瘍性大腸炎の検査や診断手順
潰瘍性大腸炎の検査はどのように行われるのでしょうか?医師の診断について分かりやすく紹介します。
検査には血液検査や内視鏡検査などが行われる
繰り返す粘血便や下痢などの症状があり、潰瘍性大腸炎が疑わしいと判断した場合は検査を実施します。
潰瘍性大腸炎の診断手順
病院での初回受診の際には、まず医師による問診があります。
問診では、どのような症状を自覚しているのか、症状による苦しさはどうか、日常生活にどんな影響を与えているのかなど、自分自身の言葉で具体的に医師に伝えられるようにしましょう。
5.潰瘍性大腸炎の経過タイプ
潰瘍性大腸炎には活動期と寛解(かんかい)期の2つの病期があります。大腸の粘膜に傷やただれが見られ、腸炎症状が出現している時期を活動期と呼びます。一方、寛解期とは血便などの症状が改善し、大腸に傷やただれがなくなって落ち着いている状態の時期のことです。潰瘍性大腸炎は慢性疾患であるため、人によっては症状が再び現れる「再燃」を起こし、活動期と寛解期を繰り返す場合があります。
炎症の範囲は3つに分類される
潰瘍性大腸炎の病態はいくつかのカテゴリに分類することが出来ます。その中でも炎症の範囲(病変の拡がり)は3つのタイプに分けられます。
-
直腸炎型
肛門に近い直腸のみに
病変(炎症)が認められる型 -
左側大腸炎型
病変(炎症)が
脾彎曲部(➞)までの型 -
全大腸炎型
病変(炎症)が脾彎曲部を
越えて広がっている型
日比紀文:チーム医療につなげる!IBD診療ビジュアルテキスト(日比紀文/監),羊土社,東京,pp.44-48,2016
①直腸炎型
肛門に近い直腸の部分だけに病変があり、発症したばかりの時期に一番多いタイプです。
②左側大腸炎型
直腸から脾彎曲部(ひわんきょくぶ)まで病変が拡がっているタイプです。体の左側だけに炎症があるので、左側という名前がついています。
③全大腸炎型
病変が脾彎曲部を超える口側まで拡がっているタイプです。
6.潰瘍性大腸炎の治療
潰瘍性大腸炎の治療のゴールは「寛解」の維持です。つまり症状と腸管の炎症が落ち着いている状態をできるだけ長く保つことが現状の最善の手段です。
また、手術(全大腸摘出術)の回避や、大腸の炎症をきちんと抑えることで大腸がんの発生リスクを軽減することもゴールのひとつです。
治療によりしっかりと「寛解」を維持し、潰瘍性大腸炎の患者さんが健康な人と変わらない当たり前の日常生活が送れるようにすることを目指しています。
寛解期を維持していくためには医師から処方される薬を定期的に内服したり、注射の治療を継続することが必要です。「症状が落ち着いているから、治療を中断しても大丈夫」といった自己判断で薬の服用をやめてしまうと、「再燃」つまり潰瘍性大腸炎の悪化につながることが多いです。
潰瘍性大腸炎の治療は病期によって治療方針が異なります。活動期には、すみやかに「寛解」を目指し、「寛解導入治療」を行い、症状が落ち着いている寛解期には、長期的に「寛解」を維持するために「寛解維持治療」を行います。
具体的に潰瘍性大腸炎で行う治療のひとつ、薬物治療では、「5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤」という内服薬を継続することが基本です。そのほかにも「生物学的製剤」や「免疫調節薬」、「血球成分除去療法」、「外科手術」などを行い、少しでも長く症状が落ち着いている状態の維持を目指します。
7.患者数の推移と分布
日本国内にはどのくらい潰瘍性大腸炎の患者さんがいるのでしょうか?
ここでは以下の2つに焦点を当てて、統計的に患者数の推移と分布を解説します。
・潰瘍性大腸炎医療受給者証と交付件数の推移
・潰瘍性大腸炎の発症年齢分布
ひとつずつ順番に確認していきましょう。
潰瘍性大腸炎医療受給者証と交付件数の推移
日本では、この40年間で潰瘍性⼤腸炎の患者数が増加しています。潰瘍性大腸炎で2020年度に医療受給者証(いりょうじゅきゅうしゃしょう)※3をもらっている方の数(医療受給者証交付者数)は140,574⼈3)でした(図1)。
- ※3
医療受給者証:潰瘍性大腸炎は厚生労働省が定める「指定難病(していなんびょう)」の一つで、一定以上の重症度の方は申請により医療受給者証が交付され、医療費の助成を受けることができます。
潰瘍性大腸炎は15歳から35歳ごろに発症することが多いとされています。しかし、乳幼児期を含む小児や50歳以上の年齢層でも発症の可能性はあります。また、男女の性別による発症率の差はないと考えられています。
8.【もっとくわしく!】潰瘍性大腸炎の病態メカニズム
ヒトの腸には「免疫」の仕組みが備わっていて、口から腸に入ってくる外敵から自分の身を守っています。しかし潰瘍性大腸炎では、何らかの原因で免疫の仕組みがエラーを起こし、外敵だけでなく自分の腸の組織を攻撃してしまっています。そこでは一体どんなことが起こっているのでしょうか。
潰瘍性大腸炎の腸の粘膜には、免疫にかかわる細胞がたくさん集まっています(図3)。その中には多くの「リンパ球」が含まれ、それらは免疫の反応を活性化させる「サイトカイン」や「ケモカイン」を必要以上に作り出しています。
それではこのリンパ球は、どこから腸にやってくるのでしょうか?その答えは、からだをめぐる血液にあります。腸は、血管の壁に「接着分子(せっちゃくぶんし)」といわれる目印を出して、血中を流れるリンパ球を呼び寄せます。リンパ球の表面には「インテグリン」というたんぱく質がついており、「インテグリン」が「接着分子」にくっつくことで、腸の組織に入りこめるのです(図4)。
潰瘍性大腸炎の腸は、通常よりも多くの「接着分子」を出しています。こうして、腸の組織には多数のリンパ球が集まり、さらなる炎症につながっていくと考えられています。
-
1)
⽇本消化器病学会編:炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン2016, 南江堂, 東京, pp.1-11, 2016
- 2)
⼤草敏史:モダンメディア, 60(11):325-331, 2014
- 3)
「厚⽣労働省:衛⽣⾏政報告例 令和2年度 特定医療費(指定難病)受給者証所持者数, 年齢階級・対象疾患別」
9.【もっとくわしく!】難病=必ず命を落とす病気ではない
難病とは、国が「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」に指定した病気のことです。難病に指定されると研究の推進や、療養環境の整備、患者さんの自立支援が行われます。
国が難病と判断する病気の条件は、「発病の原因がわからない」「治療方法が確立されていない」「長期の療養を必要とする」「患者数が一定数以内」などが挙げられます。
潰瘍性大腸炎も難病として指定されていますが、必ずしも命を落とすような病気ではなく、生存率は一般の方と変わらないと言われています。ただし、病態の悪化や発症時の重症度が重く、病変の範囲が広い場合には、手術率・死亡率が上がっていくと言われています。
潰瘍性大腸炎を発症すると、薬を長い期間飲み続けたり、入院が必要な場合もありますが、うまく付き合っていけば一般の人たちと大差ない生活を送ることができる病気であることを覚えておきましょう。
10.潰瘍性大腸炎の発症、再燃の原因
潰瘍性大腸炎の発症原因はまだ解明されていません。一定の遺伝的な要因や、ストレス、環境因子の関与が疑われていますが、それらによって誘導された体内の免疫関係が何らかの関わりをもっている可能性が高いことがわかってきています。
また、潰瘍性大腸の発症原因が分かっていないように、再燃する原因もわかっていません。環境的な要因や、ストレスなども疑われていますが、はっきり確定されたものはありません。
人はストレスにより免疫のバランスが崩れることが知られていますので、腸炎症状が悪化傾向にあれば、出来る範囲でストレスを軽減できると良いでしょう。
また、精神的なストレスだけでなく、過労や睡眠不足も身体的なストレスになります。疲弊しない程度の運動や、趣味を持つことはストレス発散にもなります。繰り返しになりますが、病気の原因は分かっていませんので、自己判断で過度に何かを制限するのではなく、バランス良い生活を送ることを心掛けて下さい。
11.潰瘍性大腸炎の食事や献立
潰瘍性大腸炎は腸管の病気であるため、炎症ある活動期は、食事に配慮することもあります。しかし、特定の食事が潰瘍性大腸炎の炎症を改善させるという科学的根拠はありません。
活動期には特定の食品を避けることが症状の改善につながる場合もあります。例えば、食物繊維の多い根菜類やキノコ類は、腹痛や便回数の増加につながりますので控えると良いでしょう。特定の食事で潰瘍性大腸炎が治ることは立証されていませんが、何でもバランスよく摂取することも重要です。
日頃の食事や献立は「症状が落ち着いている状態であるか」や「病変はどの範囲に拡がっているか」を考慮して決めるといいでしょう。またどうしても困った場合は主治医や管理栄養士に相談してみましょう。お腹の調子が悪くなってきたからといって、自己判断で食事を控えてしまうと栄養不良の原因にもつながるので、お腹の調子を見極めながら、その時々に合った食生活を心がけましょう。
12.潰瘍性大腸炎のお悩み
潰瘍性大腸炎の患者さんによくある日常生活や学校生活などのお悩みを紹介しているので参考にしてください。