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クローン病

クローン病の症状とは?
- よくみられる合併症についても解説! -

【監修】北里大学医学部 消化器内科学 横山薫 先生

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クローン病は口から肛門にかけて複数の炎症が起こる慢性の炎症性疾患の一つです。主な症状として腹痛や下痢、体重減少、発熱や肛門のトラブルなどが挙げられます。

1.クローン病の主な症状は腹痛と下痢

もっとも多い最初の自覚症状としては腹痛と下痢です。そのほか発熱も少なくありません。
潰瘍性大腸炎でよくみられる血便は、それほど多くありません。

腹痛・下痢

クローン病の主な初期症状・くり返す腹痛と下痢、体重減少、発熱

体重減少・発熱

クローン病の主な初期症状・くり返す腹痛と下痢、体重減少、発熱

クローン病の主な症状:腹痛・下痢・体重減少・発熱

裂肛(れっこう)※1や肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)※2、痔瘻(じろう)※3など、肛門のトラブルも、クローン病に伴う症状として現れることがあります。
直腸から大腸全体までの広がりに留まる潰瘍性大腸炎と比べ、クローン病では消化管のどこにでも炎症が生じる可能性があるため、病変が現れる範囲はより広い傾向がみられます。

  • ※1

    排便時の皮膚が裂けるような痛み、きれ痔

  • ※2

    肛門管内の小さな穴から侵入した細菌による肛門・直腸周囲の化膿やその結果起こる腫れや発熱

  • ※3

    膿が出たあとの管やしこり

2.クローン病の合併症

クローン病では主な症状以外にも、腸管や腸管外に合併症を伴う場合があります。この項目では、どのような腸管合併症や腸管外合併症が起こりうるかを詳しく解説します。

主な腸管合併症

クローン病の腸管合併症としては、狭窄(きょうさく)※4、穿孔(せんこう)※5、瘻孔(ろうこう)※6、膿瘍(のうよう)※7、などのほか、まれに大量の出血や小腸がん、大腸がん、肛門がんがみられます(図1:クローン病の主な腸管合併症)。

図1 クローン病の主な腸管合併症
クローン病の主な腸管合併症

狭窄(きょうさく)

狭窄は炎症を繰り返すことで腸管の内腔が狭くなることで、食べたものや便が通りにくくなってしまう状態のことを指します。狭窄部分を食べたものなどが通る際には痛みを伴うことがあります。また、お腹が張ったり、下痢になることもあり、ひどい症状では胃が圧迫され、嘔気・嘔吐・発熱・脱水などがみられます。狭窄の状態が長く続くと腸管がふさがってしまう「腸閉塞(イレウス)」に発展してしまう場合もあるので注意しましょう。

穿孔(せんこう)

深い潰瘍ができて腸に穴が開くことを穿孔と言います。穿孔することで腸管内の消化液や食べたもの、便、ガスなどが腹腔内に漏れ出してしまいます。漏れ出した異物は刺激が強い細菌を含んでおり、炎症を起こして激しい痛みを伴います。そのため、腹部に触れると痛みや硬い感触があり、吐き気や嘔吐、食欲不振などの症状があらわれます。炎症が広がると腹部全体に激しい痛みが生じ、痛みは肩まで広がる場合があります。

瘻孔(ろうこう)

瘻孔とは腸どうしや腸と他の臓器や皮膚がつながることを指します。クローン病では深い潰瘍が多発するため、瘻孔になりやすいと言われています。腸どうしなど体の中でつながっているものを「内瘻」といい、体表つまり体の表面とつながっているものを「外瘻」と言います。

肛門病変

肛門病変は肛門にできる病変のことを指します。クローン病で起こりうる肛門病変は主に3つに分類されます。

①クローン病の病変が肛門に発生したもの(一次病変)

腸にできるような潰瘍が肛門内に発生することを「肛門潰瘍」と言います。また、肛門の中に「裂肛」という縦に長い潰瘍が形成されます。クローン病の裂肛はきれ痔よりも幅が広く、周囲がむくみ腫れていることが特徴的です。また、「浮腫性痔核(ふしゅせいじかく)」という肛門の皮膚が腫れて大きくなることで、皮膚の表面に潰瘍ができるものもあります。

②一次病変が原因で起こるもの(二次病変)

もっとも多い二次病変が「痔瘻」という、肛門周囲の皮膚まで病変がトンネル状に通じている状態です。また、一次病変の裂肛の影響により、皮膚にたるみができて大きく腫れる「皮垂(ひすい)」ができる場合もあります。肛門全体の炎症が長く続いた場合、炎症によって肛門の通り道が狭くなる「肛門狭窄」になる可能性があります。また、女性であれば、肛門の前方に痔瘻が発生することで膣まで病変が通じてしまうケースもあると認識しておきましょう。

③クローン病とは関係なく発症した肛門病変(通常型病変)

まれなケースとして、クローン病では通常起こらない肛門病変が発症する場合もあります。クローン病ではない人に発症する通常の肛門病変のため「通常型病変」と呼びます。腹部症状などはみられませんが、クローン病の初期症状で起こる肛門病変との判別が難しいとされています。

膿瘍(のうよう)

病変周囲の皮下や筋肉の間に膿がたまることを言います。クローン病の肛門病変として「肛門周囲膿瘍」があり、肛門内の病変に膿がたまり腫れることで発熱や痛みを伴います。肛門周囲膿瘍は悪化すると肛門周囲の皮膚側が切れるため、結果的に痔瘻の形成につながると言われています。

主な腸管外合併症

腸管外合併症には皮膚粘膜系合併症として、アフタ性口内炎※8、結節性紅斑(けっせつせいこうはん)※9、壊疽性膿皮症(えそせいのうひしょう)※10、骨・関節系合併症として、強直性脊椎炎(きょうちょくせいせきついえん)※11、多関節炎、骨粗しょう症などがあり、そのほかに胆石などの肝胆膵病変や腎結石、眼病変などがあります(図2:クローン病の主な腸管外合併症)。

図2 クローン病の主な腸管外合併症
クローン病の主な腸管外合併症

アフタ性口内炎

アフタ性口内炎とは口腔内にみられる痛みに伴うびらん、または潰瘍です。病変の境界線がはっきりとしていて、表面が白か黄色の膜で覆われており、周りが赤くなったものを言います。アフタ性口内炎は口の内側や舌・唇・歯茎などにできやすく、痛みがあるので食べ物が触れるとしみることがあります。

結節性紅斑

結節性紅斑とは足首やすねにみられる圧痛を伴う赤い腫れが生じる、皮下脂肪の炎症の一種です。腕や他の部位にみられることもあり、患部を押すと圧痛があり、ひどい場合には発熱、関節痛、だるさなどの症状がみられることもあります。結節性紅斑では直径1~5㎜程度、大きいものだと10㎝ほどの赤や紫の紅斑がたくさん生じます。境目がはっきりせず、時間が経つとあざのように青っぽい茶色へと変化していきます。

壊疽性膿皮症

壊疽性膿皮症は主として足にみられる慢性の皮膚病変で、炎症を伴う深い潰瘍です。初期には赤い隆起や水泡ですが、進行すると破れ、強い痛みを伴うびらんとなって急速に広がります。複数のびらんが大きくなり融合することでより大きなものへと変化するケースもあります。症状が改善しても「瘢痕(はんこん)」という痕が残ったり、発熱やだるさの症状がみられることもあります。

末梢性脊椎関節炎

末梢性脊椎関節炎とは体に多く存在する関節部分が炎症を起こしている状態のことを言います。「脊椎関節炎」とは体の軸に起きるものと手足に起きるものに大きく分けられます。クローン病患者さんにみられる「末梢性脊椎関節炎」は主に膝関節や足関節などの末梢関節に炎症が起こるとされています。ただし、クローン病の炎症症状の度合いと関節炎の症状は比例しません。

症状は左右それぞれ異なる部位に起こり、一度に複数の関節が炎症を起こすのが特徴です。炎症が起きている関節によってそれぞれ少数関節炎(1〜5箇所)と多発関節炎に分かれます。少数関節炎では膝や足の関節で炎症が起きやすく、多発性関節炎の場合では膝や足の関節以外にも手指を含めた腕の関節で炎症が起きることがあります。

よく患者さんが勘違いしやすい症状として、関節リウマチが挙げられます。関節リウマチは進行すると関節付近の骨や軟骨などが破壊されるのに対し、関節炎では骨の破壊は起きません。また、症状は関節リウマチの検査で良くみられる「リウマトイド因子」が検出されるか否かで区別されています。関節炎と関節リウマチの違いをしっかりと認識しておきましょう。

  • ※4

    炎症を繰り返すことで腸管の内腔が狭くなること

  • ※5

    深い潰瘍ができて腸に穴が開くこと

  • ※6

    腸どうしや腸と他の臓器や皮膚がつながること

  • ※7

    膿がたまること

  • ※8

    口腔内にみられる痛みに伴うびらん、または潰瘍

  • ※9

    足首やすねにみられる圧痛を伴う赤い腫れ

  • ※10

    主として足にみられる皮膚病変で、炎症を伴う深い潰瘍となる

  • ※11

    首・背中・腰・手足の関節痛やこわばりを初期症状とし、当該部位の動きが制限されていく慢性疾患

3.【もっとくわしく!】クローン病とがんの関係

クローン病は普通の人に比べて小腸がん・大腸がんの危険度が高いとされています。その危険因子は若年での発症や長期の病悩期間であり、日本では直腸肛門部がんが近年、増加しています。人工肛門状態で直腸が残っている場合や、狭窄、瘻孔が10年以上持続する場合には、がん化リスクが上がると言われています。クローン病の肛門病変に対しては、定期的検査によるサーベイランス(監視)が推奨されています。

表 CD(クローン病)の肛門病変に対するがんサーベイランス
1) 視診、触診を行う
2) 外来診察、内視鏡検査時に生検する
3) 粘液があれば細胞診を行う
4) 腫瘍マーカー(CEA、CA19-9など)を測定する
5) 骨盤MRI検査を行う
・適切な検査間隔は決まっていないが、悪性腫瘍の疑いがある場合、短期間で再検査する
・疼痛緩和のために局所麻酔、腰椎麻酔、全身麻酔下での検査を考慮する

日比紀文監修:チーム医療につなげる!IBD診療ビジュアルテキスト,p72,羊土社,2016