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IBDとセルフマネジメント
- IBD患者さんのセルフマネジメントに関連する3つの研究の結果をご紹介します -

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セルフマネジメントとは

症状、治療、身体的および心理社会的影響、ならびに慢性疾患と共に生きる際に特有のライフスタイル上の変化を管理する個人の能力を指します。自己管理と訳されることもあります。

  • 出典:

    Barlow J, et al. Patient Educ Couns. 2002;48(2):177-87

炎症性腸疾患患者を対象としたセルフマネジメントに関するWEB調査

日本のIBD患者さんにおけるセルフマネジメントの実施状況およびQOLとの関係について評価することを目的に調査を実施しました。
日本人の潰瘍性大腸炎(UC)、またはクローン病(CD)の患者さん372例(UC:211例、CD:161例)を対象に、オンラインで食事や治療、身体状態、ストレス管理、経済的懸念、必要な支援サービスおよびQOLなど45項目のアンケート調査を実施しました。
今回の調査ではセルフマネジメント実施の定義として、食事・生活習慣に関する質問の、「食品購入時に、栄養成分表示をどの程度確認していますか?」、「臨機応変に食べる量や食べものの管理を行うことができていますか?」、「体調の変化に合わせて、ご自身で食事内容の変更や、休息・休暇を取る、受診する等の対応ができていますか?」の3問全てに肯定的な回答をした場合としました。
その結果、回答者の約60%がセルフマネジメントを実践しており、セルフマネジメントを実践している患者さんはそうでない患者さんよりもQOLが良好である割合が高いことが示されました。

セルフマネジメント実践状況

セルフマネジメント実践状況
Nagahori M, et al.: PLoS One. 2023; 18(7): e0287618.

また、IBDとうまく付き合っていくために必要なサポートについて下記の回答が得られました。

経済面・就労面関連

n (%)

項目 UC
(n=166)
CD
(n=122)
就労51(30.7)61(50.0)
就労の斡旋17(10.2)19(15.6)
フレックスタイム制13(7.8)17(13.9)
難病患者の雇用機会均等14(8.4)12(9.8)
通院のための休暇取得7(4.2)13(10.7)
医療費77(46.4)33(27.0)
医療費の補助・免除43(25.9)16(13.1)
治療費の削減18(10.8)9(7.4)
公的資金援助の増額9(5.4)4(3.3)
指定難病の継続7(4.2)4(3.3)
生活費24(14.5)20(16.4)
生活費支援23(13.9)15(12.3)
障害年金の増額1(0.6)3(2.5)
保険カバー率の向上0(0.0)3(2.5)
地域支援21(12.7)16(13.1)
IBDの社会的認知向上12(7.2)13(10.7)
相談スペースの設置9(5.4)3(2.5)

症状コントロール関連

n (%)

項目 UC
(n=143)
CD
(n=115)
食品関連情報60(42.0)43(37.4)
食事制限33(23.1)17(14.8)
レシピ情報17(11.9)20(17.4)
脂質およびカロリーの管理4(2.8)5(4.3)
IBD症状に合う食品の情報8(5.6)2(1.7)
症状コントロール50(35.0)43(37.4)
症状が悪化した場合の対応13(9.1)8(7.0)
相談サービス9(6.3)12(10.4)
モバイルアプリケーションとオンラインサポート7(4.9)6(5.2)
IBDに関する情報の閲覧6(4.2)6(5.2)
症状改善のガイダンス7(4.9)6(5.2)
IBDと共生するためのアドバイス7(4.9)2(1.7)
IBD関連の体調管理1(0.7)3(2.6)
患者と医療従事者とのコミュニケーション14(9.8)11(9.6)
食事指導13(9.1)8(7.0)
医師との知識の共有1(0.7)3(2.6)
食品サービス12(8.4)12(10.4)
フードデリバリーサービスの拡充3(2.1)7(6.1)
IBDにやさしい成分の使用6(4.2)2(1.7)
食事選択肢の増加3(2.1)3(2.6)
その他11(7.7)14(12.2)
新規治療薬2(1.4)4(3.5)
同じ病気の患者間での情報0(0.0)3(2.6)
職場でのIBD管理指針2(1.4)0(0.0)
その他7(4.9)7(6.1)

精神面関連

n (%)

項目 UC
(n=113)
CD
(n=86)
医療15(13.3)15(17.4)
診療環境14(12.4)14(16.3)
治療費助成1(0.9)1(1.2)
コミュニティ50(44.2)40(46.5)
IBDヘルプラインおよび支援団体へのアクセス17(15.0)15(17.4)
IBD患者中心の相談環境16(14.2)11(12.8)
IBDについて他の患者と話し合うための快適なスペース8(7.1)7(8.1)
IBD関連の課題の理解向上5(4.4)3(3.5)
オンラインサポートへのアクセス3(2.7)2(2.3)
家族連携1(0.9)2(2.3)
ストレスと不安37(32.7)20(23.3)
ストレスコントロール16(14.2)8(9.3)
不安のサポート14(12.4)11(12.8)
将来への不安緩和6(5.3)0(0.0)
症状悪化に対する不安2(1.8)1(1.2)
その他12(10.6)11(12.8)
Nagahori, et al. PLoS One. 2023; 18(7): e0287618.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0287618

※本研究は東京医科歯科大学の長堀正和先生と武田薬品工業株式会社共同で実施しました。

IBD患者さんに対するセルフマネジメント介入研究のシステマティックレビュー

この研究では、2000~2020年に公表された、IBD患者さんを対象としたセルフマネジメント研究を整理し効果的な介入方法を明らかにするためシステマティックレビューを行いました。また、アウトカムを改善する介入方法も検討しました。

  • システマティックレビューとは、あるテーマに関して一定の基準を満たした臨床試験論文をデータベース検索や文献リストなどによって収集し、エビデンスを系統的に分析・統合・評価し一定の手法に従って要約するものです。

対象の論文は50報で、介入方法を分類すると下記の図のようになりました。そのうち33報のアウトカムに改善が認められ、多くが複数のセルフマネジメントの要素を組み合わせた介入を受けていました。介入の方法として疾患知識の共有と症状管理を組み合わせた11報のうち10報でアウトカムの改善が見られました。効果的な介入の多くは患者さん参加型で、介入は看護師などの医師以外の医療者を含めた多職種のスタッフで行われていました。

介入方法の分類

介入方法の分類

結果として、多職種のスタッフが関わり、情報提供を伴う症状管理への継続的な介入は患者さんのアウトカムを改善するセルフマネジメントをサポートする可能性が示唆されました。

Iizawa, et al. Inflamm Intest Dis. 2023; 27(8): 1-12

※本研究は武庫川女子大学の布谷麻耶先生と武田薬品工業株式会社共同で実施しました。

炎症性腸疾患に関する自己効力感尺度の日本語版開発および日米比較

セルフマネジメントの重要な概念の一つとして、患者さん自身の“自己効力感”があります。自己効力感とは、結果を出すために必要となる行動を成功させることができるという“自信”を指すものです。 この研究は、米国で開発されたIBD自己効力感尺度(IBD-SES)の日本語版を開発し、日米のIBD患者さんの自己効力感の特性をアンケート調査により比較したものです。
日本語版IBD-SES(29項目)は、 1)ストレス・感情管理2)通院・服薬管理3)症状・疾患管理4)寛解維持、の4つのカテゴリーに分類されています。
アンケート調査の結果、4つのカテゴリーの内「ストレス・感情管理」、「症状・疾患管理」、「寛解維持」において、寛解期の患者さんは活動期の患者さんよりも有意に高い自己効力感が示されました。
また、日本人の患者さんは服薬アドヒアランスや医療従事者とのコミュニケーションといった「通院・服薬管理」の項目で他の項目に比べ自己効力感スコアが高いという結果でした。
日本語版IBD-SESは、信頼性・妥当性が示された尺度であるため、今後セルフマネジメント評価で使用されることが期待されます。

Tanaka, et al. Inflamm Bowel Dis. 2023;29(8):1210-1216. 
https://doi.org/10.1093/ibd/izac196

※本研究は東京医科歯科大学の田中真琴先生と武田薬品工業株式会社共同で実施しました。